SFアニメ「ガッチャマン」に登場する「ゴッドフェニックス」をご存知だろうか?
そう、あの科学忍法で「火の鳥」に変身して敵に突撃する(!)かっこいい飛行機だ。
今回ご紹介したいのはイギリスの「リアクションエンジン」という会社が開発中のスペースプレーン。
ゴッドフェニックスになんとなく似ていないか?
カラーリングを寄せてみたのでご覧いただきたい。
SpaceX社の「スターシップ」など最近開発中の宇宙船はどれもレトロフューチャーを感じさせるデザインで大好きだ。
●レトロフューチャーなSpaceXの宇宙船(Starship)
さてこのスペースプレーンを開発しているリアクションエンジン社は1989年に設立された。
この飛行機の特徴はそのデザインではなく、エンジンにある。
リアクションエンジン社の「SABER(Synergistic Air-Breathing Rocket Engine)エンジン」は、大気圏を飛ぶためのジェットエンジンと、宇宙空間を飛ぶためのロケットエンジンをそなえた革新的なハイブリッドエンジンだ。
つまりこのSABERエンジンを搭載した飛行機は地球と宇宙とを自由に往来できるのだ。
まさにSF映画やアニメに登場する未来の飛行機、ますますガッチャマンのゴッドフェニックスみたいだ。
※ゴッドフェニックスが宇宙空間を飛んだのは第9話の1回だけだが・・・
●科学忍者隊ガッチャマン(Wikiより)
だからスペースプレーン(宇宙+飛行機)と呼ばれている。
スペースプレーンはロマンだけでなく経済的なメリットもある。
SABREエンジンは現在のロケットエンジンとジェットエンジンが抱える課題を解決するために設計された。
宇宙船に搭載されるロケットエンジンは、その強大な推進力を得るために大量の燃料(液体酸素)を積み込む必要があり、その重量は宇宙船全体の70~75%にもなる。
だから一般的に宇宙に打ち上げられるロケットには巨大なブースターが付いていて、燃料を使い果たすたびに切り離していく。
だが切り離したブースターを回収して再利用することはなかなか難しく、あまり経済的とは言えない。
スペースプレーンは普通の航空機のように滑走路から飛び立ち、ジェットエンジンを使って上昇する。
空気が薄くなりジェットエンジンが使えなくなるとロケットエンジンに切り替えて宇宙空間を飛行し、目的地に近づくと再び下降してジェットエンジンを使い滑走路に着陸する。
スペースプレーンなら機体の再利用も可能だ。
リアクションエンジン社は200回程度リサイクルできるスペースプレーン「スカイロン」を2004年に発表した。
●スカイロン(wikiより)
このデザインもなかなかクールだ。
さてスカイロンやスペースプレーンに搭載予定のSABREエンジンは、地球の重力を振り切るために極超音速のマッハ5までジェットエンジンで加速し、宇宙空間に到達できるように設計されている。
ここに大きな課題があった。
マッハ2以上の超音速で飛行する場合、機体前方の空気が強烈な圧力でつぶされ「断熱圧縮」という原理によって膨大な熱が発する。
マッハ5のような極超音速になるとその熱は1000℃に達し、そのまま空気を吸い込むとエンジンがダメージを受けてしまう。
この問題は極超音速のジェットエンジンを開発するエンジニアたちを長い間悩ませていた。
超音速で飛ぶ飛行機はいったん空気を音速以下に減速させたりして対処するが、極超音速ではこのような方法では追いつかない。
SABREエンジンは液体ヘリウムを使ったプレクーラー(予冷却装置)で、わずか0.05秒の間に圧縮空気の温度を1000℃から-150℃まで冷却することを目標にしている。
プレクーラーのこれまでの実験では室温程度まで下げることでマッハ3.3の速度まで対応可能になった。
プレクーラーが目標の性能を達成すれば、SABREエンジンは大気圏でマッハ5の速度を出すことができ、宇宙空間でロケットエンジンに点火すれば、なんとマッハ25という途方もないスピードを出すことができる。
リアクションエンジン社によれば、SABREエンジンを搭載したスペースプレーンは、平均7時間30分かかるロンドン→ニューヨーク間をなんと1時間で飛ぶことができるそうだ。
まさに未来の飛行機と呼ぶにふさわしい性能だ。
スペースプレーンが宇宙空間を飛行し、再び地球の大気圏に入ってくるときにはものすごい熱を帯びる。
空気摩擦の影響もありますが、その熱のほとんどはマッハ25というとんでもない速度で機体前方の空気が圧縮されて発生する「断熱膨張」によるものだ。
※エアコンはこの「断熱膨張」を利用して、夏は熱い空気を一気に膨張させることで冷風を、冬は冷たい空気を圧縮させることで温風を発生させている。
スペースプレーンが地球に戻る瞬間を撮影できれば、さながら炎に包まれた「火の鳥」のように見えるだろう。
科学忍法のリアル必殺技を目にする日はそう遠くないかもしれない。
References: REACTION ENGINES