AIに奪われる仕事と職を失った人へのサポート・・・アメリカトラック業界の事例 | 未来塵

AIに奪われる仕事と職を失った人へのサポート・・・米トラック業界の事例

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自動運転トラックイメージ

「2045年、AI(人工知能)が人間の知能をはるかに超えて進化するシンギュラリティ(技術的特異点)が起こる」

Googleのエンジニアでフューチャリスト(未来研究者)のレイ・カーツワイルは、2005年に発刊した著書 「ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき」 でこの予測を提示し世界に衝撃を与えたが、AIが人間に近づくだけなら、その時期はもっと早まるかもしれない。

●カーツワイルは「技術的特異点は2045年までに起こる」と主張。
2017/10/5 Futurismより

2017年テキサス州オースティンで開催されたSXSW会議のインタビューで、カーツワイルは「2029年にAIはチューリングテストに合格する」と答えている。

チューリング・テストとは、コンピュータの生みの親とも言われる数学者アラン・チューリングが「人間か人工知能か」を判別するために1950年代に考案したテストで、AIがこのテストに合格するということは、人間に近い知能レベルをもつことを意味する。


「あと10年で!? そんなばかな!」と思うかもしれないが、それを実感する出来事がすでにあなたの身の回りでも起こっている。

例えば最近「AIに取って代わられる職業」とか「今後10年で消える仕事」などのフレーズをよく見かるだろう。

ここ数年でコールセンターの受付はAIに切り替わり、最近では人工的な音声で電話営業までしてくる。

10月の増税のタイミングに合わせて、多くの店舗が無人やセミ-セルフのレジを導入している。

これまでにも技術革新で多くの仕事が消えていったが、AIの社会への浸透によって今後10年以内に起こる変化は、今までとは比べものにならないだろう。

そのとき必要とされるのは、職を奪われた人々に対する、ベーシック・インカム(最低所得保障制度)などの生活を支える制度だ。


来年(2020年)アメリカでは大統領選が行われるが、出馬を表明している民主党候補の1人、アンドリュー・ヤン氏は、AIに取って代われそうな職種の1つトラックドライバーをサポートする政策を掲げた。

●アンドリュー・ヤン米大統領候補:自動運転になったとき、トラック運転手に退職金を与える
2019/8/22 BIG THINKより


現在アメリカでは300万人のトラックドライバーが働いている。
ドライバーの94%が男性で、平均年齢は49歳。平均的な学歴は高卒で、年収は4万6000ドル(約490万円)だ。

※2019年8月29日のドル円レート約106円で計算。

自動運転トラックの普及によってドライバーが職を失えば、現在のアメリカには同程度の給与を彼らに支払いできる再就職先はほとんどない。

しかもパーキングやモーテルやレストランなどトラック輸送に関するサービスを含めれば、それに関わる人は700万人以上にものぼる。

自動運転のトラックは休憩を必要としない。トラックが停まらなくなったとき、それまで運送関連で潤っていた地域の経済はどうなるのか?

これらのコミュニティまでもが自動化のリスクにさらされているのだ。


次に現在のアメリカにおける自動運転トラックの進歩状況を見ていこう。

カリフォルニア州サンディエゴに本社を置く「TuSimple」は、完全自動運転のトラックを開発しているスタートアップ企業だ。

●TuSimple は自動運転をトレーニングするためにAIを活用する
アマゾン・ウェブ・サービス (AWS) より

TuSimple社によると、トラックによる輸送コストは決して安くない。長距離トラックの運用には平均で1マイルあたり1.69ドル(約180円)の経費がかかり、その40%はドライバーの人件費だ。

一方でネット通販の普及により貨物輸送の需要が高まり、現在アメリカでは10万人のドライバーが不足している。今後もネット通販の勢いは続き、ドライバー不足はますます深刻になっていく。

さらにトラック輸送には危険がともなう。
2017年にアメリカで発生した大型トラックが関係する死亡事故は 4700件に上る。乗用車による死者全体は減少しているのに、2016年と比較して9%も増加している。


このような課題に対してTuSimple社は、AIを活用した自動運転トラックで、ドライバー不足と安全性の向上を解決しようとしている。

TuSimple社はまずアリゾナで、自動運転トラックの商用配送テストを開始した。

TuSimple社の自動運転トラック
TuSimpleの自動運転トラック(TuSimple社より)

配送は1日あたり3~5件、それぞれ100マイルほどの距離を走っている。
これらの走行データはディープラーニング用の試験データとして蓄積され、TuSimple社AIは車道のルールを次々に習得している。

現在TuSimple社は、自動運転の達成レベルで最高の「レベル4」で実験中だが、人間のドライバーが常に乗車し緊急事態に備えている。
しかし2020年末までを目標にドライバーレスの完全な自動運転をスタートさせるそうだ。

※自動運転レベルに関してはこちらの記事を参考。
●まさにナイトライダー! その名も「LiDAR(ライダー)」が自動運転の鍵を握る


さて、冒頭のヤン候補の「トラックドライバーに退職金を与える」という計画に話を戻そう。

ヤン候補は自動運転で職を奪われたドライバーに、毎月1000ドル(約10万6000円)を支給したいと考えている。

その財源だが、専門家によれば、トラックを自動運転化することで、ドライバーの人件費はもちろん、昼夜問わず運行でき、交通事故も減少するため、年間1680億ドル(約17兆8080億円)もの利益が生まれると見込まれている。

ヤン候補はこの利益に課税することで、職を失ったドライバーの退職金にしようと考えている。

確かに300万人のトラックドライバーに支給したとして、300万人×10万6000円×12ヶ月で年間3兆8160億円。自動運転トラックが生み出す利益でまかなえる計算になる。

※ただし収入的には1/4になり、すべてのドライバーがこの金額で満足するとは思えない。再就職を促すサポートプログラムも必要だろう。


日本も他人事ではない。さまざまな業界で自動化・無人化が進んでいる。しかも今後10年でそれは加速していく。

職を失った人へのベーシック・インカム新しい職につくための教育プログラムなど、さまざまなサポートを早急に検討しなければならない。

この対処に失敗すれば、国民に深刻な不安を引き起こす結果となる。

AIによる自動化の利益を享受できる者だけが富み、そこから取り残された人たちはどんどん貧しくなっていく。

下手をすればAIに対する排斥運動につながりかねない。

ターミネーターのような「人類」vs「AI」の引き金にならないために、ここ10年の政府の対応が重要だ。