
あなたは「雪男」の正体は何だと思う?
私は今でも「絶滅した原人の生き残り」か「未知の類人猿」だったらいいのに、と思っている。
さて先月、
「ヒマラヤ山脈でイエティの足跡を発見!」
というワクワクする話題を、なんと正規の軍が発表した!
インド軍の登山隊が4月9日にヒマラヤ山脈のマカルー山のベースキャンプ近くで「イエティ」らしき生物の足跡を撮影。4月29日にツイッター上に投稿した。
足跡の大きさは長さ約80cm×幅38cmもある巨大なもの。
これに反応したのがお隣のネパール軍。
現地調査を行い地元の人々や現地のポーター(荷運び人)に聞き取りした結果、足跡はときどきヒマラヤに現れる野生のクマのものだと発表した。
つまりインド軍の主張を真っ向から否定したのだ。
●イエティ足跡をめぐるインドとネパールの戦い
2019年5月8日 Mysterious Universeより
ここで「イエティ」について簡単にご紹介しよう。
「イエティ」という謎の生物の存在は、1884年にイギリスのウォーデル大佐がヒマラヤ山脈で足跡を発見したことによって世界中に知られた。
ヒマラヤに住むシェルパ族の言葉で、岩を意味する「Yah」と動物を意味する「Teh」が語源だ。
その後、たびたびイエティらしき足跡や姿が目撃され、世界中から探検隊がやってきて現地調査を行った。
しかし21世紀になっても実物は捕らえられておらず、その正体は謎のままだ。
イエティは、ロッキー山脈のビッグフットなどといっしょに「雪男」と呼ばれている。
「雪男」とは人里離れた山奥に住む、全身毛むくじゃらで直立二足歩行する類人猿型 UMA(未確認生物)の総称だ。

日本でも1970年代に広島県の比婆山連峰で目撃された「ヒバゴン」が日本版「雪男」として話題になった。
さて、いまだ捕らえられていないイエティだが、2017年にアメリカの研究チームがこれまでイエティのものとされてきた骨や毛やフンなどから大掛かりな遺伝学的調査を行い、それらがヒマラヤ山脈に生息する数種類のクマのものだったことを突き止めた。
●伝説についに終止符? ヒマラヤの雪男、米チームが「身元」特定
2017/11/29 AFPBB Newsより
またヒマラヤ地域に住むシェルパ族にヒグマの写真を見せたところ「イエティ」と認識し、ブータンで「雪男」を指す「メギュ」やチベットの「テモ」もヒグマを意味するそうだ。
つまり今回発見された足跡を「野生のクマのもの」とするネパール軍の意見は多数派の一般的なものなのだ。
ただし「ただのクマ」ではなく、あえて「イエティ」だと発表したインド軍の主張にもわずかながら希望が残っている。
偶然にも彼らの主張を補完できそうなニュースが5月1日のイギリス科学誌「Nature」に掲載された。
チベットの山岳地帯で見つかったデニソワ人の下顎骨の化石をドイツや中国などの研究チームが調査した結果、人類はこれまで考えていたよりもはるかに早い時期に高地での生活に適応していたことがわかった。
●高地のチベット高原でも生活していたデニソワ人
2019/5/1 natureより
デニソワ人とは、2008年にロシアの西シベリアのアルタイ山脈にあるデニソワ洞穴で発見された女児の指の骨の化石の調査によってその存在が判明した、4万年以上前に住んでいたとされる人類だ。
遺伝的にはわれわれの直接の祖先である現生人類(ホモ・サピエンス)に近く、アジアや南太平洋のメラネシア人などにもデニソワ人由来のDNAが一部含まれている。
デニソワ人は同時代に生きていたネアンデルタール人と同様に、現生人類によって絶滅させられたとみられている。
しかし今までに発見されたデニソワ人の化石は西シベリアのものしかなく、入手できたデータには限りがあった。
今回の調査でデニソワ人と判明した下顎骨の化石は、1980年代にチベットの僧侶によってたまたま発見されたものだ。
残念ながら化石内にDNAは残ってなかったものの、たんぱく質の抽出と分析に成功し、放射性同位体による年代測定によって、なんと少なくとも16万年前のものだということがわかった。
つまりデニソワ人はこれまで考えられていたよりもずっと昔から、西シベリアだけでなく南のチベット高原まで広く生息していたのだ。
さらに重要な発見があった。
デニソワ人は酸素が薄い高地でも、血液に酸素を行き渡らせるヘモグロビンの生成量を調整して低酸素症を防ぐ遺伝子の変異があることが知られていた。
例えばチベット民族やネパールのシェルパ族も、デニソワ人と同様にこの高地の低酸素環境に適応した遺伝子の変異を持っている。
しかし最初に化石が発見されたデニソワ洞窟の標高は700メートルほどでそれほど高いわけでもなく、なぜ彼らがこの遺伝子の変異をもっていたのかが謎だった。
今回の下顎骨の化石が見つかったチベット高原の洞窟は標高3280メートルの高地にある。
この事実は、高地の環境に適応するために低酸素症を防ぐ遺伝子の変異がデニソワ人にそなわっていた理由になる。
つまり現生人類がチベット高原やその周辺に到達するはるか以前に、デニソワ人というわれわれの直接の祖先とは異なる人類が、高地の低酸素環境に適応して暮らしていたということなのだ。
●デニソワ人のDNAの謎解明か 16万年前にチベット高地に適応 研究
2019年5月2日 AFPBB Newsより
もしもわれわれの祖先の現生人類の侵略から運よく逃れ、さらに高地のヒマラヤ山脈の環境に適応したデニソワ人が今でも生き残っていたとしたら・・・。
もう1つ、2011年にロシアのケメロヴォ州で開かれた雪男に関する国際会議では、「ケメロヴォ州に95%の確率で雪男が実在する」との結論が出された。
●「ロシアに雪男いる確率95%」 国際会議で結論
2011年10月12日 asahi.com (朝日新聞社)より
デニソワ人の化石が最初に発見された洞窟のあるアルタイ地方とケメロヴォ州は同じ西シベリア地域にある。

「雪男」=「絶滅した原人の生き残り」という一番ワクワクする可能性が、まだワンチャンあるかもしれない。