手にしたスプーンが飴細工のようにグニャリと曲がっていく・・・。
1970年代半ばから80年代にかけてユリ・ゲラーの来日をきっかけにはじまった超能力ブーム。
家族全員でテレビの前にかじりつき、ユリ・ゲラーがスプーンを曲げる姿を食い入るように見ていた。
彼がテレビの向こうでハンドパワーを放つと、画面のこちら側で止まっていた腕時計が動き出して、とても驚いたのを覚えている。
※当時テレビ局には「壊れた時計が動いた!」という問い合わせが数多く寄せられたそうだ。
ユリ・ゲラーの超能力のなせる技か、あるいは今よりもっとテレビが大きな影響力をもっていた時代だったので、お茶の間の視聴者の時計のうち、ほんの一部の調子の悪かった時計がたまたま動き出したのではないかと考えられている。
その後、秋山眞人氏や清田益章氏といったいわゆる超能力少年の登場で超能力ブームはさらに盛り上がった。
彼らはテレビや雑誌などの超能力実験に積極的に参加し、いずれはきっとこの能力が解明され、私のような一般人でもスプーンを曲げたりトランプのマークを裏側から透視できる時代がくると勝手に思い込んでいた。
しかし残念ながら研究が進むどころか超能力の実態は一向に解明されず、テレビや雑誌も次第に否定的な内容に変わっていき、やがて超能力ブームは下火になっていった。
それから30年以上経った2017年1月17日、情報の開示を求める活動家たちの努力によって今まで機密扱いだったCIA(アメリカ中央情報局)の内部文書が公開された。
この1,300万件にも及ぶ内部文書は1940年代から90年代の研究や政策が中心で、その中にはUFOの目撃報告や「スターゲイト」と呼ばれるリモート・ビューイング(遠隔透視実験)などの興味深いタイトルのファイルも含まれていた。
その中に1970年代に行なわれたユリ・ゲラーが参加したという超能力実験の報告書が見つかったのだ。
再びユリ・ゲラーと超能力に注目が集まった。この報告書はCIAのオンライン・ライブラリーで誰でも閲覧可能だ。
●SRIでのユリ・ゲラーの実験(1973年8月4~11日)
CIA Libraryより
この報告書によると、1973年8月にCIAとSRI(米スタンフォード大学研究所の前身)が合同でユリ・ゲラーの超能力を検証するための実験が実施された。
隔離された部屋の中でランダムに選ばれた単語から描かれた絵が何であるかを透視するという実験で、 8日間の実験の結果、有意な確率でユリ・ゲラーは絵に描いてある図柄を的中させた。
だが、その後もさまざまな超能力実験が行われた結果、どの実験も最終的に実用的な成果を残すことができず、1990年代中ごろにはすべてのプロジェクトが終了してしまった。
やはり超能力は幻だったのか・・・
ところが先日、人間には視覚・聴覚・味覚・臭覚・触覚の5感以外に、磁場を感じ取る6番目の能力が備わっているという研究が発表された。
●科学者達は脳が地球の磁場を感知できるという証拠を見つけました
2019/3/18 LIVE SCIENCEより
地球上には渡り鳥やウミガメのように磁場をコンパスやナビゲーションに利用して旅する生き物がいる。
しかし人間にもまさかこの能力が備わっていようとは・・・。
2019年3月18日付けの学会誌eNeuroに発表された論文によると、無意識だが、人間の脳にも地球の地磁気を感知する機能が備わっていることが証明されたそうだ。
●Transduction of the Geomagnetic Field as Evidenced from Alpha-band Activity in the Human Brain(ヒトの脳のアルファ波活動から地磁気の伝達が証明)
2019/3/18 eNeuroより
1980年代にはすでに「人間の磁場を検出する能力」について示唆されていたが、その後の実験で証拠を見つけることはできなかった。
カリフォルニア工科大学の研究チームは新しい分析手法で人間が磁場を感知できるかどうかを調べた。
34人の実験参加者たちは、大きなコイルで囲まれた部屋に座らされた。この部屋はコイルに電流を流すことで、室内の磁場を変化させることができる。
この磁場の強度は地球の磁場とほぼ同じで、MRIの10万分の1程度の弱さだ。
実験の間、参加者はリラックスして目を閉じるように言われた。
研究者は室内の磁場を操作し、脳波計で被験者のアルファ波を測定した。すると被験者の一部で、アルファ波が減少した。
アルファ波はリラックスしたり何も作業をしていないときに発せられる脳波だ。
実験でアルファ波の減少が計測されたということは、脳が磁場をなんらかの刺激として受け止めた証拠になる。
34人の参加者のうち、4人が磁場の北東から北西への変化に対して強い反応を示した。彼らはそれ以外の方向の変化には反応しなかった。
これはちょうど自然界の磁場の方向と相関しており、人間の磁場の感知システムが自然環境に合ったものだと考えられる。
なお実験参加者の中でこの磁場の変化を意識的に感じ取れた人はいなかった。
実験結果が偶然ではないことを確認するために、参加者たちは数週間後に再びテストされ、同じ結果が得られた。
特徴的なのは、芸術が得意な人や語学に堪能な人がいたり、右利きと左利きの人がいるように、この反応には個人差があることだ。
今回の実験結果から計算すれば、磁場を知覚する能力がある人の確率は10%程度と考えらる。
もしかしたら方向感覚に優れた人と方向音痴の人がいるのも、この能力の差によるものかもしれない。
さらに「なぜこの能力が人間に備わっているか?」について「昔人々が獲物を追いかけていた時代に進化した」という仮説がある。
地球の磁場をナビゲーションに使っている動物はたくさんいるので、日常的には使われなくなった能力でも、今でもその名残を持つ人がわれわらの中にいても不思議ではない。
それでは具体的にどのような仕組みで人は磁場を感知するのだろうか?
科学者たちは、走磁性細菌と呼ばれる種類の細菌にヒントがあると考えている。
これらの微生物は、生体マグネタイトと呼ばれる磁性粒子を体内に持ち、この粒子を使って地球の磁場に沿って移動する。
これらの磁性粒子は人間の脳の中にも存在することが知られている。
この粒子が人間の磁場の知覚にも影響している可能性がある。
研究が進めば、いずれ人間が意識して磁場を知覚できるようになるかもしれない。
体内コンパスを使って北の方角がわかるようになれば、方向音痴はいなくなるだろう。
またカナダのローレンシアン大学のマイケル・パーシンガー博士が行なった実験では、磁気を用いて脳のニューロンを活性化させる「経頭蓋磁気刺激法(TMS)」という方法で脳の特定の部位に刺激を与えると、被験者は幽霊のような目に見えない存在を感じたり、宇宙や神を身近に感じたりという神秘体験を感じることがあるそうだ。
●超常体験は脳への磁気刺激が生み出す幻
2002/4/23 WIREDより
この現象を逆から考えれば、神秘体験や幽霊のような超常現象は、地球の磁場が脳に干渉したことで引き起こされるのかもしれない。
幽霊が見える人と見えない人がいるのも、人間が磁場を感じる能力に個人差があることで説明が可能だ。
この能力が磁性粒子を増殖させたり訓練によって開発可能ならば、スプーン曲げとはいかなくとも、誰でも神秘体験が可能になる時代がやってくるかもしれない。
Reference:LIVE SCIENC