ブラックホールを利用して星から星へと旅するヘイロー・ドライブとは? | 未来塵

ブラックホールを利用して星から星へと旅するヘイロー・ドライブとは?

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惑星間旅行する宇宙船イメージ

太陽系を飛び出して、星から星へと流線型の宇宙船で旅をする・・・。

子供のころSF小説や映画を見て思い描いていた惑星間旅行は、21世紀になった今でもまだ夢物語だ。

NASAやSpaceX社が月や火星への宇宙旅行を目指して最新の宇宙船やエンジンを開発しているが、惑星間旅行の難しさはその比ではない。

とくに問題となるのはコスト旅行時間燃料の3つだ。

2016年にスティーブン・ホーキング博士とロシアのベンチャー投資家ユーリ・ミルナー氏が中心となって「スターショット計画」(Breakthrough Starshot)が発表された。

スターショット計画では、切手サイズの「スターチップ」と呼ばれる超小型宇宙船に極薄の帆を取り付け、地上からこの帆に向かってレーザーを照射することで、光速の20%の速度を実現しようとしている。

「ブレークスルー・スターショット」wikiより

この超小型宇宙船の向かう先は、地球から4.3光年の距離にある最も近い恒星(太陽のように自身でエネルギーを放っている惑星)、アルファ・ケンタウリだ。

最も近いと言っても、光速の20%というものすごい速さで飛んで20年もかかるが・・・。


「ブレイクスルー・スターショット」 Breakthrough Initiatives-Youtubeより

スターショット計画では、レーザー照射の圧力だけで加速させることができるので、燃料を運搬する必要がないのが最大のメリットだ。
レーザー照射を宇宙からではなく、地球上から行うことでコストダウンもはかっている(強力なレーザー照射衛星を宇宙に打ち上げるのは非常にコストがかかる)。

しかしこの計画で予定されているエネルギーは、原子力発電所の発電量の数週間分にあたり、現在の私たちにそれだけの量を蓄えておく技術はない。

さらに時間的な問題が残ってしまう。

もちろん切手サイズの超小型宇宙船では、人や生き物を乗せて飛ばすことはできない。

だからスターショット計画では、アルファ・ケンタウリに到達した宇宙船は猛スピードで恒星の横を駆け抜け、その際に撮影した写真や収集したデータを地球に送ってくることを目的としている。


これでは描いていたような惑星間旅行じゃない?

人を乗せて惑星間旅行できる宇宙船と言えば、1950年代から60年代にかけて研究されていたオリオン計画(Project Orion)がある。

●「オリオン計画」wikiより

アメリカの数学者スタニスワフ・ウラム博士などが提案したプロジェクトで、宇宙船の後方に核爆弾を放出して爆発させ、その衝撃を鋼鉄製の頑丈な板で受け止めて推力とする、なんとも豪快な宇宙船だ。

アイデアは途方もないが、このオリオン方式のエンジンではロケットエンジンの理想である大きな推力と高い噴射速度の両方を実現でき、意外にも現実的な惑星間航法に適したエンジンだ。


オリオン計画(Project Orion.avi)

オリオン型宇宙船は光速の3%まで加速でき、スターショット計画とまではいかないものの、アルファ・ケンタウリまで140年で到着可能だという。

しかし残念ながら、1963年の部分的核実験禁止条約の影響を受けて計画は中止された。


惑星間旅行の実現に向けて新たなる一石を投じているのが、コロンビア大学クールワールド研究所のデイビット・キッピング博士が提案する「ヘイロー・ドライブ」(Halo Drive)だ。

「Halo」とは光の輪の意味。ブラックホールはその強大な重力で光でさえも抜け出せない天体だが、ブラックホールの側に同じような高密度の星が連星として存在していた場合、連星からのガスや塵がブラックホールの周りに降着円盤という輝く円盤を形成する場合がある。
キッピング博士はこの輝く円盤を「光の輪」に例えて名付けたそうだ。

ヘイロー・ドライブは、宇宙船の加速にブラックホールの強大な重力を利用する。

惑星の重力を利用して宇宙船を加速させる方法としては「スイングバイ」航法が有名だが、ヘイロー・ドライブは少し異なる。

●「スイングバイ」wikiより
※ちなみにブラックホールを直接スイングバイに利用しようとすれば、その強大な重力に耐えられる宇宙船と脱出速度を確保できる強力なエンジンが必要だ。

キッピング博士のアイデアは、ブラックホールの周りに光子(下の図では赤いレーザー光線)を放って、光子がブラックホールから得た余剰エネルギーを使って宇宙船を加速させる方法だ。

ヘイロー・ドライブ解説図
ヘイロー・ドライブの解説図

宇宙船から放出された光子がブラックホールの周囲をぐるりと回り、ブーメランのように再び宇宙船へ返ってくる過程で、光子はブラックホールから運動エネルギーを得る。

その過程は、「ペンローズ過程」と言い、自転するブラックホールからエネルギーを取り出すことができるという理論を応用している。

●「ペンローズ過程」wikiより

ブラックホールから運動エネルギーを得て戻ってきた光子を再び宇宙船が受け取ると、増えたエネルギーによって宇宙船は加速する。


「ヘイロー・ドライブ(The Halo Drive)」 Cool Worlds-Youtubeより

※キッピング博士による本格的な説明は9分ぐらいから。

●ヘイロー・ドライブ:再生ブーメラン光子による大質量の無燃料相対論的推論 (キッピング博士の論文)
2019/3/1 コロンビア大学クールワールド研究所より

この航法、どこかで見たことはないだろうか?(上のYoutube動画はネタバレになるが・・・)

そう、映画「インターステラー」で主人公の宇宙飛行士クーパーが、巨大なブラックホールから仲間の宇宙船を救うため、自らの乗った宇宙船を切り離してブラックホールに落下させ、そこから得た運動エネルギーで仲間の宇宙船を加速させて見事ブラックホールから脱出させた。

キッピング博士は宇宙船を犠牲する代わりに光子を使った。

キッピング博士によれば、「ヘイロー・ドライブ」はブラックホールより質量の小さな中性子星でも可能なそうだ。

十分に進歩した文明ならば、ブラックホールから別のブラックホールへと飛び移ることで、銀河から銀河へと光速に近い速さで移動することができるかもしれない。

それはまさに映画「インターステラー」のような星から星へと旅する惑星間旅行だ。

キッピング博士のヘイロー・ドライブは現時点では人類のもつ技術力をはるかに超えたアイデアだ。

今はまだ実現不可能だとしても、子供のころに描いた惑星間旅行のイメージに一番ぴったりな航法だと思う。

Reference:コロンビア大学クールワールド研究所,Universe Today